リスク管理におけるコンピューターの利用と経営戦略上の重要性について

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作成者 Stephen H. Conwill |  2015年3月5日

過去に先人が対峙してきたリスクよりも、今日我々が直面しているリスクの方が深刻で管理が難しいと、私が言うのは言いすぎでしょうか。人類の歴史には、その特徴として安定期と大きな混乱期がありました。それぞれの混乱からは、反省や学びがもたらされました。混乱がどのように発生したのかを説明し、過ちから学び、不確実な未来に向けて進む際に、過ちから得た知見が先の道を照らすことを願うものです。

我々は安定期の真っただ中にいるのでしょうか?それとも、この先大きな混乱が起こるのでしょうか?誰も、その問いに答えることはできません。非常に優れた人でも、透視能力を備えてはいません。ですが、不確実性に直面した時に無力な訳でもありません。実際、今日利用できるリスク管理ツールにより、過去に比べると、不確実な将来に対して、はるかに上手に備えることができるのです。

これは何度も言われてきたことですが、繰り返す価値があると思うので、あえてお話しします。我々の世界は、恐らく想像以上の速さで変化しています。テクノロジーがもたらす変化もあれば、文化の違いや地理的な対立による変化もあります。我々は、こうした力が複合的に作用しあう変化に直面しています。変化は確実に起きていますが、変化の方向まではわかりません。そしてもちろん、大部分の詳細をはかり知ることはできません。

今日は、ミリマンのセミナーにご出席いただき、本当にありがとうございました。我々から、財務報告作成や保険数理システムの新たな方向性、そしてクラウドが新たにもたらす革新性についてお話ししました。このような状況変化の重要性を捉えた会社が、数年先にはマーケットリーダーになると考える理由について少しお話ししたいと思います。将来を正確に読み取ることはできませんし、将来の地政学的ダイナミクスを描くことはできません。日本のGDPなどという比較的単純な数値でさえ数年先を正確に予測することはできません。とはいえ、シナリオや感応度を用いた確率の分析は、我々の事業計画に欠かせません。将来どのような展開があっても、全体が複雑な相互依存の作用により機能するシステムの観点から変化を受け入れ、リスク管理の観点から変化を受け入れ、積極的に人材という資本を育て配置することができる会社が、将来も存続し繁栄する会社です。

財務報告は、戦略機能を有するか?

ここで基本的な質問をさせてください。財務報告の作成は戦略機能といえるでしょうか?それとも単に会社経営に必要なものでしょうか?答えを考えてみる前に、その歴史を大まかに振り返ってみましょう。

考古学者は、7000年も前にさかのぼる帳簿記録を発見しました。ずいぶん昔から簿記が行われていたわけですが、その当時からは多くのことが変わっています。社会の複雑性は増し、帳簿技術は会計報告から財務報告へと進化しました。そして今、非常に重要な岐路に立っています。今や、財務報告の機能とリスク管理の機能を統合する時代がきているのです。

財務報告は戦略的機能を有するといえるでしょうか?ときに単なる義務と思われていますが、実はそうではなく、戦略的な差別化の手段として必要なものです。歴史を紐解くと、複式簿記や株式会社の情報開示などの新たなアイデアが取り入れられ、会計報告も財務報告も今や戦略的手段になったことが分かると思います。また驚くことではありませんが、それぞれの時代には新たなアイデアに対する抵抗が常にありました。しかし早い段階で適応したものが、重要な戦略的優位を獲得してきました。理解のしやすさと透明性に対する基本的な経営ニーズが、変化に対する本能的な恐怖心を打ち負かし、経営内容を監視される不安を克服するための手助けとなりました。

IFRS 4フェーズⅡの検討には、長年にわたり膨大な労力が費やされました。今だから白状しますが、こうした取り組みをする価値が本当にあるのか、簡便化するための努力をすべきではないのか戸惑うこともありました。もっと広い範囲をざっくりと見る手法で満足すべきではないのかと考えたことも度々ありました。しかし、審議の結果を見て、財務報告と戦略的リスク管理の取り組みを統合する手助けとなるツールが今日利用できることを考えると、今はっきり、実行に値する価値があったと確信しています。

財務報告に精通することなく繁栄する会社はありません。日本企業はこの点をよく理解しています。財務報告手法の明瞭さ、透明性、効果を高めるために、皆様は過去20年ものあいだ取り組まれてきました。全ての企業が同じという訳ではありませんが、これは紛れもない事実です。会社によっては、さらにクオリティーの高い情報を作成し、その成果を活かして、効果的な目標やインセンティブを開発しています。様々なマトリックスを用いて、オペレーションと戦略の構築ならびに検証をおこなっています。これらのマトリックスは、様々な選択肢の中から戦略を選び、成功を測定することに役立つのです。

つい最近まで、財務報告手法の変化は積み重ねの作業でしたが、今やそうではありません。テクノロジーの進化は、10年ほど前までは不可能だったレポーティングやリスク管理手法を可能にしています。我々の事業環境の複雑性には、こうした手法の導入が不可欠であり、テクノロジーの進化を受け入れることなしに企業は存続することができないでしょう。

リスク管理は、戦略機能を有するか?

リスク管理は、戦略機能でしょうか?もちろん、その通りです。多くの会社が、少なくとも理論上は、そう答えるでしょう。戦略的リスク管理の概念は、欧州のソルベンシーⅡ、そして日本でも検討が進んでいる実務の根幹をなすものです。しかし、この概念をまだ本当の意味で受け止めていないのではないでしょうか。今後、組織の隅々まで行き渡らせることが求められています。

リスク管理の担当者が自分の部署に入ってくると、これまでしていた話題を変えがちです。我々は組織にリスクカルチャーを組み込むことについてよく話をしますが、言うだけなら簡単ですが実践するとなると話は別です。「敵か味方か」という発想から抜け出すことは大変難しいことです。

本日のセミナーの大きな目的は、このギャップを埋めるのに役立つ、非常に実用的なツールについてお伝えすることです。

リスクマネージャーは、門番でも、いつも反対ばかりする人(naysayer)でも、差し迫った危機をやかましく警告する係でもありません。リスクマネージャーは、パートナーやまとめ役、そして好機を見出し、それに付随するリスクを上手に管理する同僚として見られなければなりません。

現在はリスクの時代?

我々は今、例外的なリスクの時代にいるのでしょうか?

例えば、以下のようなリスクは、日本における事業に直接影響があるかも知れません。

  • 貿易保護主義の台頭、貿易の途絶、公然と行われる紛争等の地政的リスク
  • グローバル金融のシステミック・リスク
  • 日本政府の債務残高に関する不確実性
  • 日本の社会保障制度、特に年金と健康保険の財政に関する不確実性
  • 量的緩和の究極的拡大に関する不確実性
  • 人口高齢化、出生率、移民に関する不確実性
  • 金利上昇の可能性とその関連インフレリスク
  • テクノロジーのもたらす破壊的影響
  • 新しい、従来と異なる競争相手の出現

こうしたリスクは恐ろしく、これらには、我々のコントロールが及ばないものもあります。直観的に知らないふりをしたくもなり、我々の使っているモデルの対象を超え、リスク管理手法の範囲を超えているからと言い訳をしたくなりますが、それで諦めてしまっては、本質的に間違いを犯すことになります。

新しいツールの出現

比較的簡単な予測をする場合でも、将来どうなるかについて、過去は目安にしか過ぎないという事実に突き当たります。

我々は皆、自分の会社の将来を考えるよう訓練されています。遠い将来の予測を行うため、過去についての知識を利用するよう訓練されています。ストレステストやリバース・ストレステストを行い、確率論的にも決定論的にも考えます。手に入るデータとツールを用いて、非常に不確実な世界に向けて歩みを進めています。

しかし、我々は透視能力者ではありません。

透視能力者ではありませんが、モデリングやリスク管理の諸活動の範囲と信頼性を高めるツールや手法を使うことができます。こういったツールは、たとえ非常に不確実な将来を目の前にしても、頑健(robust)で順応性を備えた(resilient)組織を構築する手助けとなります。

ミリマンのINTEGRATEは、そのようなツールの一つです。

コンピューターの「計算能力」が意味すること

過去三、四十年にわたり、たゆまず飛躍し続けた計算能力の向上の結果、我々は、注目すべき岐路に立っています。これまでも、優れた財務報告システムへの投資を行うことにより、利益の増加がもたらされました。今や、新しい財務報告の技術は、繁栄と存続に不可欠のものです。

我々のビジネスの他の分野でも、同様のことが起こっています。業界を広く見回すと、ウェブベースのテクノロジーがセールスやカスタマーサービスのサポートに不可欠になってきています。金融サービス業では、トレーディングとヘッジの分野で高度なテクノロジーが既に欠かせないものになっています。また、保険会社にとっても、データ分析が急速にメインストリームになってきています。

そして、このような計算能力によってもたらされた付加価値は、財務報告およびリスク管理において、ますます明らかになっています。

  • 提供している商品と抱えているリスクは複雑
  • 金融市場の挙動と顧客の行動は複雑
  • 監督当局および格付機関の要求が増大
  • 競争の激化

現状として、このようなことが挙げられますが、計算能力の飛躍的向上により実現可能になった、新たなレポーティングおよびリスク管理の概念を利用したツールは、こうした複雑な問題への対処を助けてくれます。

日本の会社が直面する最大の課題とは?

グローバル化の時代に高齢化が進む国として、日本が直面している最大の課題は何でしょうか?そして日本企業が直面している最大の課題は何でしょうか?まず縮小する国内市場と厳しいグローバル競争という2つのことがすぐ思い浮かびます。しかし、3つ目の問題の可能性も挙げると、それは、高齢化社会でビジネスをする企業にとって、最も根本的な課題は、優秀な人材に関する競争です。つまり、必要な才能を持つ人材を採用する力であり、新たなテクノロジーとアイデアを活かして競争に打ち勝つための人的資源をどのように確保するかということです。

我々の生活について考えてみましょう。従来よりももっと多くのことを、より速く、より効果的に実行することが求められています。ビジネスをする社会や市場が一層複雑化するにつれ、我々の仕事もより一層複雑になってきています。

この困難な環境で、日本企業には3つの選択肢があります。1つ目は、効果的に競争するためのリソースを開発できずに縮小する道をとる、2つめは、自社組織のかなり大きな部分をアウトソースする戦略をとる、あるいは、3つ目として、社内での管理を維持するために、システムおよびプロセスのフレキシビリティーを大きく向上させることです。

私は最後の選択肢が、皆様の会社にとって、そして日本にとっても、最善だと思っています。

組織改革の必要性

新たなテクノロジーを導入すると、必然的に組織が変わります。しかし、単に新しいシステムやアイデアを導入したからといって組織が変わるわけではありません。自分たちの組織を自分たちの手で積極的に変えていくのです。テクノロジー、労働力の減少が引き起こす制約、そして急速に変化する顧客ニーズ、グローバルな競合状態の複雑性、これらを頭に入れて組織を設計していくのです。

組織的な変革なしには、存続の道はありません。

システム環境の変革、組織改革、このような怖い響きの言葉で、いわゆる「リストラ」を思い浮かべる人がいるかもしれません。

ここで言っているのは、そのようなリストラではなく、「再配置(redeployment)」のことです。限りある人的資源を前提にして、とても難しい事業環境の中、最高の成果を達成するにはどうするかということです。このためには人的要素である職員に新しいテクノロジーによる能力を与えるとともに、そのような人たちを、最も切実に必要としている業務に適正配置できるようにすることです。

これが、INTEGRATEの神髄でもあります。

ビジョナリー( Early Adapter )の優位性

私が主張したいのは、新たなテクノロジーを早期に取り入れる、ビジョナリーになることが競争上絶対に重要であるということです。先行会社の後追いをすることで満足している会社は、いずれ淘汰されるリスクを冒します。護送船団方式の時代はとっくに終わったのです。

ゆっくりとした変化の積み重ねにより、必要な改革ができると信じたい誘惑はわかります。国家としての日本も日本の企業も、変化の積み重ねの対応にはとても長けています。実際、1990年代の保険業界の財政危機の後、健全な行政監督方針と賢明な企業経営により、日本の保険業界の資本力の再強化が進みました。1990年代の危機後の日本の保険業界の復活は、並外れた称賛に値する成功の記録です。

しかし、現状満足に陥る危険には注意が必要です。世界中、日本中のあらゆるところで、かつて繁栄した企業が傾いてしまったのは、とてつもないリスクをとったためではなく、自己変革を怠ったためという例がいくつもあります。こうした企業の動きは遅すぎたのです。少しずつ積み重ねるようにして適合しようとしていましたが、周りの世界はそれ以上に素早く変化していたのです。

しかし、ここにいらっしゃる皆さまは、成功すると確信しています。

戦略的優位を確立する

組織の活動にシームレスに組み込まれた、良く設計されたリスク管理システムが与えてくれるメリットとはどのようなものでしょうか?

  • 低廉なコスト
  • 優れた生産性
  • 資本ニーズの理解の向上
  • 適切な資本配分
  • 機会の特定と検証能力の向上
  • 適応性の向上
  • 変化する環境下における高い順応性

これらはすべて、決定的なメリットです。

日本へのビジョン

日本の高齢化社会などのように、周りのリスクが一層高まる中での安定的社会では、保険業界が経済の中で最も活力があり、重要な分野の一つとなるでしょう。

将来のことを考える場合、我々は皆、義務的な感覚を持つ必要があると思いますが、併せて、将来に向けての大きな期待や共通のコミットメントの感覚も持たなくてはなりません。日本のバブルや失われた何十年とデフレについて話す時、我々は皆、とても重要なある事実を見失っているのかもしれません。それは、この十年間の日本の保険業界の発展が、本当に素晴らしいものであったということです。日本には今、保険および金融サービスの進化とリスク管理において、世界のリーダーになるチャンスがあります。それは今日ここにいらっしゃる皆さまのゴールでもあるはずです。日本は、1970年代、1980年代と、電機・自動車産業はじめ数多くの業界で、クオリティーとイノベーションのリーダーとして世界を驚かせてきました。今ここで一つの予言をいたします。これは保険においても起こると思います。日本の国内の保険会社は、実際、日本でお客様に提供しているサービスのクオリティーについて、世界中で認知されています。日本の生命保険・損害保険会社は、世界の多国籍企業の中でリーダーの役割を引き受けつつあるのです。日本は、他国にはない非常にたくさんの良いものを提供できるのです。

もちろん、日本以外の国々と多くの課題も共有しています。しかしこれはチャンスでもあり、リーダーシップを発揮することができるのです。日本はこの先十年間に、高齢化社会という厳しい状況における安全性、安定性、効率性に対するビジョンの構築において、世界をリードする国になると確信しています。

ご清聴ありがとうございました。